カルスの棺桶の住人達へ
天使降臨の軌跡が世界各地で起こっている。
俺もこの目で見た。そりゃもう感動した。
突然空が光って、天使が現れ、魔物共を
一瞬で退治してくれる。あの恐ろしい魔物共も天使達には
まったく歯が立たない。教会がまるで自分の手柄のように
宣伝してまわる事だけはちょっと不愉快だが、
天使のおかげでランツの町の大部分が
人間様の手に戻った。
いよいよ、敵は「魔物」ではなく
「人間」そのものになってきた。
アスロイトは四強から三教に変わりつつある。
脱落したのはウェイッティン公だ。残りの
三公爵の中では悪名高き赤獅子騎士団を擁する
デューラー公が、アスロイトの東部から南東部に
かけてを手中に収め1歩リードしたというところか。世界最大の都市バイレステは反乱軍による
略奪で見る影もないとのことらしい。
バイレステ共和国軍も完全に消滅、各部隊は
山賊に成り下がったも同じだ。
アスロイトからもバイレステからも、
そのほかの国からも、毎日毎日戦争の話が
飛び込んでくる。
お前達から買い取った武器も、魔物との
戦いに役立ってるというよりは、人間同士の
戦争に使われてるんだろう。いつの間にか
自分が「死の商人」になっていたってのは
なかなかイヤな気分だ。天使の登場は嬉しいニュースだが、
そのせいで神聖裁判も俄然激しくなってきた。
魔物の恐怖、神聖裁判、そして戦争・・・
誰も信じられない、
家族や恋人さえ信じられない、
人が生きるには余りにもむごい時代だ。
だからこそ、アノイア教を心の支えにする
人間は、身分の上下を問わず増え続けている。
人々の信仰心も、平和だった頃と比べると
比較にならないくらい強いだろう。そこへ天使の登場だ。
否が応でも信仰心が高まる。
もう教会の堕落と腐敗を口にする者など
1人もいない。
みんなが神に気に入られようと必死だ。
これを教会が利用しないわけがない。
教皇庁や各地の司教座は、神聖裁判の名を
借りて、異端派、反教皇派を次々と
処刑し始めている。神聖裁判とは無縁だった旧バイレステや
フィサーノの都市部でも神聖裁判が盛んに
行われると聞く。
今回は明るい話題半分、
暗い話題半分というところか。
なにはともあれ、
自分の家で眠れるのはいいことだ。
天使の力に感謝しつつ夜を迎える。
タッセル商会 オルターナ・E・タッセル