あらゆる病を治すことのできる方法、それが白い箱だった。
実験についてのメモが残されている。
苗床の実験はほぼ完了していた。
だが、苗床の肉体に限界がきてしまうのが難点だった。浮浪者などの身元があやふやな人間は多く、今まではそれでなんとかなっていた。しかしいくらでも調達できるとはいえ、何度もやっていれば警察に目をつけられかねない。そこで考えたのが機械を使った転移だ。
簡単に言うと病を出したりいれたりすることで治癒するターンを設けると言う案だ。これでどんな苗床の肉体であってもあらゆる病に耐えることができる。
(ゲームあるあるのトンデモ理論)
そういうわけで被験体となる少年=「彼」をつかまえ、箱に閉じ込めて20年。
長い月日を経て主人公がようやく訪れたのだ。
主人公は元上司に「病院から医療品や資料を回収」するように依頼された。
この元上司はおそらく最後の隠し部屋にあった白い箱の研究者だろう。彼は自信を安全な場所に置き、秘匿していた白い箱の研究を続けようとしたのか。今の立場ははっきりしていないものの、主人公に莫大な報酬と医師の免許をぽんと返せるほどの役職だ。いずれにせよ医師であることに変わりはないから、白い箱さえ手元に戻ればその元上司はまた『名医』になれるかもしれない。
エンディングは全部で4つ。真エンディングに辿りつくには条件がいくつかある。
一つ目は職場放棄。
主人公は白い箱の手前まで辿りつくが、真実を知らないまま依頼主に資料などをそのまま渡した。莫大な報酬と医師免許をもらった主人公はこれで今までの生活に戻れると思ったが、そうはいかなかった。彼の幻覚は悪化の一途をたどり、まともな生活などとても送れなくなっていた。
最初はその幻覚に付き合っていたが、ついに主人公は諦めることにした。一番楽な方法を選んだのだ。
『誰も彼も死んでしまえ』
これは自殺したと解釈した。主人公は誰かを巻き込んで殺せるようなタイプだと思えなかったからだ。
二つ目は慈悲の心。
これは主人公が白い箱の中身を知ってどう対応するかだ。
主人公は目の前の「彼」が長い間苦しみを背負って生かされていたことを知っている。だから、その苦痛から彼を解放してやるために、「彼」を殺した。いくら機器でつながれて延命していたとしても、部屋の中には毒薬もある。それを「彼」につながる装置に流し入れるとそれで終わりだった。
この事実を知った主人公は、依頼主にあそこで一体何をしていたのかと追求する。
幻覚に悩まされてどちらかというと人とのコミュニケーションが苦手そうな主人公が、追求するとはまた意外な展開だった。結局依頼主は口を開かず、主人公は資料を取り返して一人で調査を始める。思っていたよりアクティブ主人公だ。だが、もともと秘匿されていたものを外部から調べるのは骨が折れる。第一、証拠や参考になるものはあの病院にしかない。だが病院は解体されてなくなってしまった。
もはや主人公ができることはなくなった。だから、主人公はこれからは自分の人生を歩もうと決める。
小さな病院を開き、地元の人に愛されて、結婚もして幸せな日々を送る中で時折主人公は「彼」のことを思い出す。そして「彼」のための墓を作った。中に何も入っていないとしても、そこに「彼」を眠らせることが主人公の慰めにもなった。
このエンディングは綺麗なエンディングだ。
鬱々としていた主人公も救われて晴れやかな人生を送ることができた。
だが、それでよいのだろうか?
三つ目は理想の結末。
主人公は医者である。免許を剥奪されたとはいえ、目の前の「彼」に対して適切な処置を行うことができる。二つ目のエンディングとは異なり、今度は「彼」を治療する。部屋中のメモを参考にして、薬品を選び装置にセットし「彼」に送り込む。薬品は組み合わせを間違えると主人公が死ぬし、ボタンを押す場所が違うと生真面目な主人公は何度もなんども、薬品の調合を変えてみたり機械を修理したりと何年も、何十年もそこにいる。これはもちろんゲームオーバー扱いなのだけど、主人公はそこまでしてでも「彼」を救おうとする。
そして、苦心の末「彼」を助けることができた。緊張の糸が切れた主人公はそのままずるずると床に倒れて眠ってしまう。
だが、目覚めると椅子の上にいたはずの「彼」がいなくなっている。治療はできたようだが、それがどうなのかを確かめようにもいないのだ。あれだけ長い間ここにいたのだから、外に出たらいろいろ面倒になる。見た目は戻ったのかとか、どこに行ったのかとか。
主人公はあちこち探したが「彼」は見つからなかった。
そして翌日、主人公に依頼をしてきた男が惨殺された。頭を砕かれて四肢を千切られて。
(頭砕いて即死させてから四肢を千切るなんてまだ優しいなと思った、私なら逆にするかもしれん)
警察じゃなくても男に恨みを持ったものの犯行だとわかるが、主人公には心当たりがあった。
あの隠し部屋にはご丁寧に医師のリストがぽんと置いてあったからだ。
リスト上の医師は勿論のこと、家族、親戚、友人に至るまですべての関係者が殺されていく。
主人公はなんとかそれを関係者に伝えようと奔走する。基本的にこの主人公はお人好しなのだ。ただちょっと、手術とかが好きなだけで。
そして最後の関係者に辿りつく。幸いその人物はまだ生きていた。が、この後のセリフはぞくっとした。
「後ろの人、誰?」
言うまでもなく彼であろう。
テキストはここで終わるからこの後どうなったかはわからない。だけど、下に書く四つ目のエンディングを踏まえると「彼」は主人公を殺さなかったと思う。その代わりに目の前を血の海に変えたかもしれない。最後の一人を殺した時「彼」は何を思うのだろう。そして、どうするのだろう。
四つ目は白い病。
これだけが「彼」の視点になり、画面には主人公の背中が映る。プレイヤーは「彼」となり、主人公を操作して「彼」を解放する。つまり上の「理想の結末」は「彼」が導いた結果とも言える。
「彼」はもともと病人だった。だが事故が起きて植物状態になった彼を、よりにもよって苗床として白い箱に放り込んだ輩がいた。考えるのもおぞましいが、箱に放り込んで上からどろどろの液体を流し込むその精神は異常だ。窒息しそうなものだが、その心配はなかった。というか、窒息した方が「彼」にとってはよかったのかもしれない。
その不思議な箱は「彼」の全てを包み、壊し、ただ痛みだけを彼に与えた。死ぬこともできず、循環システムによって自らを癒し、再び痛みを与えられる。
こんな状態なのに「彼」は人間的な正気を保っていた。20年もの間である。
そしてやっと主人公によって解放された。
彼はこれからどうするかをもう決めていた。三つ目のエンド「理想の結末」である。だが、目の前にいる「最高の医師」である主人公がそれを知ったら、きっと主人公は「彼」を必死で止めるだろう。だから「彼」は主人公が疲れて眠りに落ちるのを待ち、それから立ち上がって部屋から出て行った。彼は本当に主人公に感謝していた。
これからは僕と関係のない人間をたくさん救うだろう………と言っている。それはつまり「彼」と関係があるものおは救わない=殺すということなのだ。復讐がはじまる。
主人公はどうするのだろう。勿論殺人の連鎖を止めようとするだろう。だが、それが終わったら?
二つ目のエンドのように幸せな生活はもうできまい。「彼」はそれを望んでいるが、主人公が「彼」の行なっていることを知ったらどう思うだろうか。主人公はきっと「彼」を追いかける。三つ目と四つ目のエンドは表裏一体なんじゃないだろうか。
そして箱の外に出た「彼」はプレイヤーに語りかける。
散りばめられているテキストは多くないし、ボリュームもまあ暇潰すか、くらいのものだが割とのめり込んで遊んだ。クリックをしていればアイテムを見つけることができる仕様なので、カチカチしていればいいがたまに罠があってダメージを食らう。手が届かないところはねこじゃらしで猫に助けてもらう。
グラフィックが細かく描かれているため、アイテムが非常に見づらいのが難点といえば難点だが、いかにも「これです」と主張されるとそれはそれで萎えるのでまあこれでいいのかもしれない。少ないテキストを脳内で組み立てて行くのは楽しかったが、中庭での猫と少年の話だけは本当に胸が痛くて辛かった。
ボリューム的にシナリオがどうしても短くなってしまうが、これはこれでいいと私は思う。
あまり冗長にして変なホラーゲームになってはこの淡々とした感じが消えてしまうからだ。
主人公が医師免許のためにひたすら病院内で物を集めるのと同じで、プレイヤーも淡々と事実を拾っていけばいい。
また記憶が薄れた頃に遊び直したい。