魔物の正体は!

カルスの棺桶の住人達へ

驚くべきニュースだ。

いま俺達の前にいる魔物たちは、
どこからともなく突然現れたわけではなく、
俺達人間が化けたものだったんだ。

前々からそういう噂が流れていたが
正直俺はあまり信じていなかった。
だが、人が魔物に変わる瞬間を
この目で見れば信じざるを得ない。

何が原因で魔物に変わるのかわからないままだというのに、
お前達には気の毒な噂も広まっている。
カルス・バスティードに一度でも行った事の
ある奴は必ず化け物に化けるって噂だ。

アスロイト王国やラコース王国、
ファコルツ公国の一部の地域では、
カルスの棺桶に少しでも関係する奴が
裁判もなしに片っ端から処刑されてるらしい。
もちろん根も葉もない噂だとは思うんだが、
教会がそれを煽っているから手に負えない。

お前達の町と関係の深い
このランツの町ではさすがにそういった
ことはないのだが、お前達がもし町の外に出られたとしても、
しばらくは故郷に帰らない方がいいだろう。

次に各国の情勢をわかる範囲で伝える。

バイレステ共和国政府は属領からの軍の撤退を決定した。
共和国政府は、海軍・陸軍問わず全ての軍勢を
首都バイレステに集結させている。

奴らは、全ての食料と武器を根こそぎ首都に運んでいるらしい。
つまり、属領は見捨てられたってわけだ。
実際、バニアや西セフィータでは、
魔物から身を守るための自警団を
組織しようにも先立つ武器がない有様らしい。

バイレステの支配がやっと終わって
奴等の念願である祖国の独立・再統一が成されたわけだが、
今度は魔物と飢えが容赦なく奴等を襲うってわけだ。

アスロイトでは、国王の呼びかけを
無視した地方の諸侯や豪族が、それぞれ兵を集め、
別々に魔物相手の戦いを始めている。
「他人の土地なんて知ったこっちゃねえ」
というのが奴等の本音なんだろう。

1つの国の中に100を超える大小様々な国ができたようなものだ。
奴等の軍隊は何も魔物相手だけに力を発揮する訳じゃない。
諸侯同士の小競り合いも増えてきているそうだ。

この諸侯の中でも抜きん出ているのといえば、
やはり、ファルツ、デューラー、アスカニア、ウェッティンの四公爵。
この4つの勢力はもう既に国王を抜いている。
逆に、王都ガスニッツは諸侯が軍を
自領に引き上げたために丸裸になっているらしい。
ラコース王国では、国王主催の晩餐会に魔物が出現したらしい。
王様はもちろんのこと、王宮にいた貴族のほとんどが食われたそうだ。
運良く生き延びた貴族達は、このどさくさに城主のいない城を奪いまくっている。
火事場泥棒とはこのことだろう。

イレニア島では、バイレステ共和国が島の北側を放棄したため、
念願の独立が叶って浮かれているとのことだ。

問題は、上にも書いたように、
共和国の駐留軍が全ての食料と武器を持っていったということか。
次の収穫期までに何千人餓死者がでるか・・・
哀れなのは置いてきぼりをくらったバイレステ系の住人も同じだ。
2つの民族の受難がこれから始まるだろう。

フィサーノ都市国家連合はこの隙に
ラコース王国の南とバイレステ西部の都市を
かすめ取ろうとしているらしい。
団結心の「だ」の字もないフィサーノ人だが
こういうときだけはやたらと早い。

ファコルツ公国はアスロイトに侵攻するのではないかと言われている。
今までの二国の歴史を見れば別に驚くほどの事でもないのだが。

ルミニア王国、クラスダール王国、
ビアトスク王国、そしてトラドア王国・・・
この辺境の国々の情報はまだ手に入らない。
セフィータ王国の内陸部や、
アスロイトでもガスニッツよりも北の方になるとさっぱりだ。

また何かあったら伝える。
期待せずに待っていてくれ。

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魔物出現!

カルスの棺桶の住人達へ

連絡が遅くなってすまない。
だが、とても手紙を送るどころではなかった。

数ヶ月前のある日、何の前触れもなく
世界中に魔物が出現した。
混乱と恐怖で大陸各地がパニックだ。
この世界は一夜にして地獄に変わってしまった。
まだ数ヶ月しか経っていないのに、
この地獄がもう10年以上続いているような錯覚を覚える。

バイレステ共和国政府は各地に軍隊を
派遣したが連戦連敗、全く役に立っていないらしい。

アスロイト王国では国王の招集に応じる
騎士が1人もいない有様だ。
国王は仕方なく農民を徴兵しているが、
支給する武器も食料もないようでは
魔物と戦う前から負けるに決まっている。

平和な時代があまりに長く続きすぎたのだろうか、
戦う方法をみんな忘れているように思えてくる。

魔物共のおかげで、
俺達交易商人の輸送網・通信網もズタズタだ。
七街道のうち通行可能なのは1つだけで、
バイレステやレノスのような食料自給率の低い
大都市では餓死者まで出ているらしい。
バイレステ共和国政府は海路を使って食料を集めているようだが、
上手くいってないことだけは確かだろう。
もし仮に食料が運ばれても、庶民の手元に届くことはあるまい。
全ては貴族の胃袋へってところか。

他の国からの商館からは連絡すら来ない。
だが、この様子だと安全な場所など
どこにもないのかもしれない。

このランツの町ももう駄目だ。
眼のない二本足のトカゲ、赤い巨大なコウモリ、
サルみたいな泣き声の頭の長い魔物、
あわせて100匹はいただろうか・・・
気づかないはずはないんだが、いつのまにか町中にもいやがった。
城門も城壁もこうなれば無意味だ。

今、俺達は森の中の修道院に避難しているが、
町の住人で避難できたのは半分もいないだろう。
残りはすべて奴らのエサになってしまった。
あれだけ大勢いた役人も1人もいない。
こちらは喰われた数より逃げた数の方が多いのだが。

魔物の巣窟となったランツの町に今回初めて戻ったわけだが、
幸運にも転送機の置いてある建物は魔物に荒らされていなかった。

安全なルートを探すのに1ヶ月近くもかかってしまったが、

これからは新たな情報が入り次第そちらに伝えることもできそうだ。
もちろん、俺が生きていればという前提だが。
互いの幸運を祈る。

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ファコルツ騒動の続報

カルスの棺桶の住人達へ

送ってもらった「子竜の宝珠」、
いつもの8倍の値段でバイレステの貴族に売りつけさせてもらった。

地下都市アスラ・ファエルの発見より40年、
さすがに昔ほど効率よく大金に化ける財宝も少なくなってきたが、
今回は珍しく旨みのある商売だった。
一応ここで礼を言っておく。

そういえば、「魔法具」の相場だけは

20年以上ずっと高値で安定している。
7割は南の方に流れてるようだ。

この平和な時代、あんなものを集めてどうするんだと
疑問に思うこともあるが、
高値で売れることに誰も文句はない。
これからもどんどん送ってくれ。

次に、世界中の出来事を書き連ねておく。

バイレステ共和国四十人委員会の議長が、
イレニア独立運動のテロリストによって殺害された。

今年の頭に元首の家が家事になって、
パーティーに来ていた政府高官6人が炎に巻き込まれて死んだが、
あれもおそらくイレニア独立運動の仕業だろう。

いずれも犯人はまだ捕まらないが、
バイレステ共和国政府はこの報復のため、
5百人を超えるイレニア人を、
イレニア島から連れ去ったらしい。
また労働力としてどこかの山に送るのだろう。

国と国との戦闘がなくなって、
もう千年を越えるらしいが、
こういう歪みは一向になくならない。
いや、最近は特にひどくなっていくように感じる。

俺が歳をとっただけかもしれないが・・・

次に北の話題に移る。

アスロイト四公爵の1人アスカニア公と
ファコルツ公国との騒動は
大方の予想通り金で解決したが、
終わり方が少し面白かったので書いておこう。

一時期は、同じくアスロイト四公爵の1人
デューラー公とファコルツ公国が手を結んで
アスカニア公を挟撃するという噂も流れたが、
有利なはずのファコルツ公が先に手を引いた。

これもあくまで噂だが、
ファコルツのある有力者の1人息子が
何を思ったのか1人でアスカニア公の領土に
攻め込んで、逆に森で遭難したらしい。

ファコルツ公はその男の捜索をしてもらうため、
アスカニア公に大金を渡したそうだ。
こんな頭の悪い貴族サマのために税金を納めているとは・・・
ファコルツの民には同情を禁じえない。
いや、どの国も似たようなものか。

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ファコルツの騒動

カルスの棺桶の住人達へ

今回その町に向かった冒険者は合計87人。
だが、数カ所で山崩れが起こったらしい。
後発の隊商が今日引き返してきた。
詳しいことはまだ分からないが、
全体の2割も辿り着けないのではないかと思う。
珍しくない事故とはいえ、今後の商売に影響が出ないか心配だ。

商館ごとの取り分も見直さなければならないし、
何人がそちらに着いたか、
そちらに辿り着いた商隊にどのくらいの財宝を持たせることが出来たか、
そちらの手続きが終わり次第、なるべく早く報告してくれ。

次に、世界中の出来事を書き連ねておく。

まずは「ミバル公殺害事件」の続報だ。

去年の秋、ラコース王国の第2の実力者ミバル公が、
ラコース王国とバイレステ共和国の国境線の森で実の子に殺された話は
今まで何度か書いたと思うが、
2ヶ月前、その犯人がブレーゼの町で目撃されていたそうだ。

ここからはもちろん推測だが、その町に向かったという可能性も出てきた。

無事に町に入れたか、山崩れのせいでこの町に戻ってくるかは
まだ分からないが、後者なら賞金稼ぎのいいカモになるだろう。

北ではアスロイト王国とファコルツ公国がまた揉めだしたようだ。
ファコルツ公が、アスロイトの四公爵家の1つ
アスカニア公の娘の悪口を言ったことが騒動の発端らしい。

悪口合戦はどんどん加熱して、
今では両公爵とも軍勢を集めて相手を攻めてやると息巻いているとのことだ。

軍隊などいくら集めても、
2百年前の「7月戦争」のように一度も剣を交えることなく終わるのは目に見えているが、
こんなことが原因で国と国とが喧嘩とは・・・
呆れ返るほど平和な時代だ。

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