カルスの棺桶の住人達へ

各国の情報があれから続々と入ってきた。

アスロイト王国は事実上消滅した。
しかも、1500年の歴史を持つこの王国を
潰したのは魔物ではなく人間だった。
王が逃げ込んだラニッツの離宮は
財宝目当ての20人足らずの山賊に襲撃され
王族は全滅・・・
王の最期を守る兵は一人もいなかったらしい。
惨めな最後だ。ざまあみろだが。

王家の没落とは正反対に
ますます勢いづいているのが四公爵だ。
その四公爵同士の戦いが
いよいよ本格的に始まりつつある。
力はともかく一番有名なのは
東部のデューラー公爵家か・・・
デューラー公の息子たちが作った「赤獅子騎士団」
この悪名は遠く離れたこの町にも
嫌というほど耳に入ってくる。

赤獅子騎士団の通った跡は
魔物以上にひどい有様らしい。
無関係な村が幾つも焼かれ、
若い女と全ての食料が奪われる。
南アスロイトの地方都市カッセルでは、
3万人の市民が虐殺されたとのことだ。
だが、肝心の魔物を見つければ一目散に
逃げるところがいかにも貴族らしい。

バイレステでは、
各属領から呼び戻された軍隊の活躍によって
市内中心部の魔物はあらかた退治された。
だがその後が悪い。今度は、属領出身の兵や
傭兵たちが反乱を起こしたとのことだ。

南の田舎者がバイレステの豊かさと、
バイレステ軍の主力であるはずの
第一水軍のだらしなさを見れば、
反乱をおこされても文句は言えないが、
それにしても笑えない冗談だ。
反乱をおこす舞台は次々と増えて、
市内全域が戦場になっているとのことだ。

バイレステが支配していた広大な領土も、
今ではアスロイトと同じく幾つにも
分裂している。ただ、アスロイトと違って
バイレステの貴族はほとんどが首都に
いたから、各地方を支配するのは地方都市の
市民議会ということになる。
バイレステ人の大好きな多数決の議会だが、
みんなあたふたするだけで決断が遅い上に
誰も責任をとろうとしない。
平和な時代ならともかく、この乱世には
不向きとしか言いようがない。そのためか、
山賊あがりの事象皇帝など、
胡散臭い連中も現れているそうだ。

人間が魔物に変わる現象も、一時期と
比べると最近はかなり減ってるはずなんだが、
別の問題が急に浮上している。
「神聖裁判」の復活だ。

隣の人間がいつ化け物に
変わるかわからないという恐怖が
こんなものを復活させたんだろう。
ろくな裁判もせず、有罪・即死刑・・・
「あいつは魔物に化けるぞ」って教会に
密告されただけでそいつの死は確定だ。

周囲から嫌われている者、
中途半端に金を持ってる者、
みんな、いつ密告されるかってヒヤヒヤしている。
(もっとも、本物の大金持ちは
あらかじめ教会に大金を渡しているので
裁判にはならないらしいが。)

たがいに密告の恐怖におびえ、
恐れるあまり他人に無実の罪をおしつける・・・
親兄弟や恋人でさえも信じられない、
そんな時代になりつつある。
得をするのは教会だけだ。

そうそう、遥か北の地では、
周りの人間が信じられなくなった領主が
住人の4割を殺戮するという事件まで起こったらしい。
魔物なんぞよりこっちの方がよっぽど危険だ。

そういえば、最近ここに流れてくるニュースには
ほとんど魔物が登場していない。
魔物の数は減るどころか増えているはずだが、
それ以上に人間の蛮行の方が目に付く。
いや、実際に被害にあった人数も
桁違いに多いだろう。

魔物の恐怖が、千年もの間眠っていた
人間の「肉食動物の本能」を
目覚めさせてしまったのだろうか・・・
本当に嫌な世の中だ。

暗い話ばかりで申し訳ない。
次こそ明るい話題を書けることを期待する。

タッセル商会 オルターナ・E・タッセル