カルスの棺桶の住人達へ
連絡が遅くなってすまない。
だが、とても手紙を送るどころではなかった。数ヶ月前のある日、何の前触れもなく
世界中に魔物が出現した。
混乱と恐怖で大陸各地がパニックだ。
この世界は一夜にして地獄に変わってしまった。
まだ数ヶ月しか経っていないのに、
この地獄がもう10年以上続いているような錯覚を覚える。
バイレステ共和国政府は各地に軍隊を
派遣したが連戦連敗、全く役に立っていないらしい。アスロイト王国では国王の招集に応じる
騎士が1人もいない有様だ。
国王は仕方なく農民を徴兵しているが、
支給する武器も食料もないようでは
魔物と戦う前から負けるに決まっている。平和な時代があまりに長く続きすぎたのだろうか、
戦う方法をみんな忘れているように思えてくる。
魔物共のおかげで、
俺達交易商人の輸送網・通信網もズタズタだ。
七街道のうち通行可能なのは1つだけで、
バイレステやレノスのような食料自給率の低い
大都市では餓死者まで出ているらしい。
バイレステ共和国政府は海路を使って食料を集めているようだが、
上手くいってないことだけは確かだろう。
もし仮に食料が運ばれても、庶民の手元に届くことはあるまい。
全ては貴族の胃袋へってところか。
他の国からの商館からは連絡すら来ない。
だが、この様子だと安全な場所など
どこにもないのかもしれない。このランツの町ももう駄目だ。
眼のない二本足のトカゲ、赤い巨大なコウモリ、
サルみたいな泣き声の頭の長い魔物、
あわせて100匹はいただろうか・・・
気づかないはずはないんだが、いつのまにか町中にもいやがった。
城門も城壁もこうなれば無意味だ。
今、俺達は森の中の修道院に避難しているが、
町の住人で避難できたのは半分もいないだろう。
残りはすべて奴らのエサになってしまった。
あれだけ大勢いた役人も1人もいない。
こちらは喰われた数より逃げた数の方が多いのだが。魔物の巣窟となったランツの町に今回初めて戻ったわけだが、
幸運にも転送機の置いてある建物は魔物に荒らされていなかった。
安全なルートを探すのに1ヶ月近くもかかってしまったが、
これからは新たな情報が入り次第そちらに伝えることもできそうだ。
もちろん、俺が生きていればという前提だが。
互いの幸運を祈る。
タッセル商会 オルターナ・E・タッセル