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戦艦武蔵/吉村昭

musashi.jpg戦艦武蔵/吉村 昭著

「高熱随道」で吉村昭の他の作品も読んでみたくなり、密林書店で何冊かぽちり。そして、早速「戦艦武蔵」読了しました。

当時の最高機密として扱われていた、武蔵を初めとする大和型戦艦。正直なところ、戦艦には全く興味がなかったのですが、緻密に描かれた武蔵の建設、構造を読むうちに、ものすごくスケールの大きな戦艦だったのだと改めて思い知らされました。

少し前に話題に上ったイージス艦「あたご」と、民間の漁船の大きさを比較したとき、あまりの大きさの違いに驚いたのですが、その「あたご」と武蔵を比較すると、武蔵は更に全長が100mも長いのでした。想像の限界です。その割に大和や武蔵は小回りのきく設計になっており、実際多くの魚雷や爆弾を避けたというのだから、素人にはびっくりの一言です。

※調べてて、イージス艦と比較するのはちょっと違うなぁと思ったんですが、ぱっと想像できそうなもの、ということで名前出しました。イージス艦といっても多種なのねー。


当時としては世界最大であった武蔵。読み進めていくうちに、建設に携わっている人たちの熱っぽさが移ってきたのか、完成するのが待ち遠しく感じられました。刻々と変化する世界情勢の中、着実に武蔵は造られていきます。無事に進水し、細部が完成され、武器も次々と武蔵に取り付けられていくのを読んでいると、完成の近いことに対して胸が躍るくらいでした。

当然のことながら、戦艦を作っているのは民間の会社です。しかし、一度それが完成すれば、それは軍の所有になります。無事に完成した武蔵が、民間から軍へ引き渡されるのも、考えてみれば当たり前のことなのですが、建設に携わった多くの民間の人の手を離れていくのは少し寂しくもありました。そこから先は民間人が知ることのできない世界となることを、明確に意識した作品でした。
大艦巨砲主義と呼ばれるものも、第二次世界大戦の中で徐々に変化していき、最終的には航空主義に変わっていきます。大和、武蔵に続いて建造されていた信濃は、空母へと改造されます。戦艦は、その大きさ故にコストも高く、安易に前線へ送り込むことが出来ないという弱点を持っていました。そのため、完成後も長い間島に留まり続けていたのでした。

私が想像していた戦艦モノというのは、勇ましく最期まで戦う姿を描いた作品だったのですが、吉村昭の「戦艦武蔵」はそうした姿とはまったく対照的で、絶対だと思われていたものがいともあっさりと沈んでいく虚しさが、「高熱隧道」を読んだ後と似ていました。戦争そのものが美しかったとは思っていませんでしたが、前半で武蔵の建造に胸を躍らせていただけに、後半の実戦シーンの呆気なさがなんとも言えず…。

戦艦などの知識がほとんどなかった、という吉村昭でしたが、緻密な調査の上描かれた「戦艦武蔵」。そのためか、ゆっくり読めば素人の私でも充分想像できる内容でした。同じ第二次世界大戦の話で、空を舞台にした「零式戦闘機」も読み終わりましたが、こちらも合わせて読むと、今までの戦争とは少し違った切り口で感じることが出来るかもしれません。
(零式戦闘機の方が描かれている期間が長いので、私は武蔵→零式という順番で読みました。零式の中で、武蔵とダブる期間が出てくると「おぉ、あのときこっちではこんなことが」と楽しめたり…)

このあと、同じく吉村昭の「赤い人」も読了。まだまだ吉村ブームは続きそうです。
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